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2005年03月20日(Sun)
渇きの女王―ヴァンパイア奇譚/トム・ホランド
『渇きの女王―ヴァンパイア奇譚』/トム・ホランド
文庫: 585 p ; サイズ(cm): 15 x 11
出版社: 早川書房 ; ISBN: 4150408572 ; (1997/11)
内容は、上記のようなことで、インド生まれの吸血鬼がロンドンで暗躍するという話。とはいえ、これは病気だと考えられていて、主人公である医師エリオットは、なんとかその原因をつきとめ、治療法を見つけようとするのだが・・・。
スタイルは、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』と同じようなもので、エリオットの日記と、周囲の人間の手紙、さらにブラム・ストーカー(のちに『ドラキュラ』を書く)の手記といったもので構成されているのだが、ドラキュラのようなカリスマ的な魔人が登場するわけではなく、今いち迫力に欠ける。この話の吸血鬼の親玉は、インドの女神破壊神カーリーってことになるのだろうか?絶世の美女が何人も登場して男を誘惑していくのだが、そのあたりがお手軽すぎるという感じもする。ま、ドラキュラも似たようなものか。
しかし、先述のブラム・ストーカーや、オスカー・ワイルドなど、実在の人物も登場し、また本書の登場人物の大部分が、『ドラキュラ』の登場人物の焼き直しといった感じで、そのあたりはキム・ニューマンのヴァンパイアものにも通じる面白さがある。
『ドラキュラ』を読んだときは、怖い!怖い!と思ったが、これは全然怖くない。謎めいた心霊的な描写がないせいか?たしかに死んだはずの人間が生き返るのは同じなのだが、いつの間にか生き返っていたというわけで、実際に棺おけからは出てこない。心臓を狙って殺せば、すぐに死ぬ。インド出身の吸血鬼というのも、イメージ的にピンとこないのかも。
さて、さきほど実在の人物が登場すると書いたが、実は最後にあっ!と思わせる仕組みが隠されていた。女吸血鬼リラ(インドのカーリーであり、ギリシアではキルケ、ユダヤではリリスであるとされる時空を超えた不老不死の存在)のほかに、もうひとりルースヴェン卿という吸血鬼が登場するのだが(こちらのほうはドラキュラのイメージがある)、この紳士は、なんと、あの詩人のバイロン卿だったというのだ。バイロン卿が吸血鬼となって、延々と生き続けているというのだ。
さらに、主人公のジャック・エリオットだが、最後には女吸血鬼リラによって洗脳され、これまたびっくりの「切り裂きジャック」となってしまったのだ。そして、リラの呪縛が解かれた時、「切り裂きジャック」は消えたが、バイロン卿と同じ吸血鬼となり、苦悩を抱えながら生きていくといった次第。
ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』では、ヴァン・ヘルシング教授という善のヒーローが登場し、吸血鬼をやっつけるという顛末になっているのだが、この本にもヴァンヘル役とおぼしき人物はいる。インド人の巨漢フレー教授である。しかし、インド出身の吸血鬼もぴんとこないが、インド人の巨漢がヴァンヘル教授の役まわりというのも、全然ぴんとこない。結局、フレー教授は吸血鬼退治には何の役にも立たなかったし。
しかしこの本の面白さは、そうした読者への裏切りで成り立っているかもしれない。ストーカーの『ドラキュラ』を読んでいる人は、まずスタイルが『ドラキュラ』と同じことに気づき、さらに、これがヴァンヘルだな、などと思って期待する(あるいは、なんだ真似じゃないかと思う)のだが、吸血鬼はずっと生き残っているし、主人公は切り裂きジャックになってしまうし、ヴァンヘル役の吸血鬼の大家は何の役にも立たないというのがわかると、まんまと騙されたなと思い、思わずニヤリとなる。
また、エリオットと作中のブラム・ストーカーのコンビは、シャーロック・ホームズとワトソン博士のようでもあり、その謎解きの仕方も、ホームズそっくりである。そんなところも、ホームズ作品を知っている人なら楽しめる部分だ。
ちなみに、インド出身の吸血鬼はぴんとこないと書いたが、訳者あとがきによれば、学者や研究家の多くは吸血鬼発祥の地をインドだと主張しているそうだ。しかし、それはそれでいいが、どうやっても滅ぼすことのできない神のような存在として描かれてしまうのは、なんとも救いがないような気がする。「エイリアンVSプレデター」みたいなもので、どっちが勝っても「人類に未来はない」といった感じだ。吸血鬼をやっつけられないとしたら、いずれ地球は吸血鬼だらけになってしまうだろうに。
そこで、ドラキュラがエリザベス女王と結婚して人類征服を図るなんて話が出てくるわけだが、それはまた別の作家の話。それからの話はキム・ニューマンに譲ろう。
『渇きの女王―ヴァンパイア奇譚』/トム・ホランド文庫: 585 p ; サイズ(cm): 15 x 11
出版社: 早川書房 ; ISBN: 4150408572 ; (1997/11)
内容(「BOOK」データベースより)
血液学を研究する医師エリオットは、吸血鬼伝説が囁かれるインド国境で、身の毛もよだつ体験をしたあと帰英した。ロンドンで診療所を開いたが、悪夢は故国までも追ってきた。親友の一人が血を抜かれてテムズ川に浮かび、もう一人が失踪したのだ。友の行方を追うエリオットは劇場支配人ブラム・ストーカーと知りあい、二人はヴィクトリア朝ロンドンを跳梁する吸血鬼の正体をさぐっていく。
血液学を研究する医師エリオットは、吸血鬼伝説が囁かれるインド国境で、身の毛もよだつ体験をしたあと帰英した。ロンドンで診療所を開いたが、悪夢は故国までも追ってきた。親友の一人が血を抜かれてテムズ川に浮かび、もう一人が失踪したのだ。友の行方を追うエリオットは劇場支配人ブラム・ストーカーと知りあい、二人はヴィクトリア朝ロンドンを跳梁する吸血鬼の正体をさぐっていく。
内容は、上記のようなことで、インド生まれの吸血鬼がロンドンで暗躍するという話。とはいえ、これは病気だと考えられていて、主人公である医師エリオットは、なんとかその原因をつきとめ、治療法を見つけようとするのだが・・・。
スタイルは、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』と同じようなもので、エリオットの日記と、周囲の人間の手紙、さらにブラム・ストーカー(のちに『ドラキュラ』を書く)の手記といったもので構成されているのだが、ドラキュラのようなカリスマ的な魔人が登場するわけではなく、今いち迫力に欠ける。この話の吸血鬼の親玉は、インドの女神破壊神カーリーってことになるのだろうか?絶世の美女が何人も登場して男を誘惑していくのだが、そのあたりがお手軽すぎるという感じもする。ま、ドラキュラも似たようなものか。
しかし、先述のブラム・ストーカーや、オスカー・ワイルドなど、実在の人物も登場し、また本書の登場人物の大部分が、『ドラキュラ』の登場人物の焼き直しといった感じで、そのあたりはキム・ニューマンのヴァンパイアものにも通じる面白さがある。
『ドラキュラ』を読んだときは、怖い!怖い!と思ったが、これは全然怖くない。謎めいた心霊的な描写がないせいか?たしかに死んだはずの人間が生き返るのは同じなのだが、いつの間にか生き返っていたというわけで、実際に棺おけからは出てこない。心臓を狙って殺せば、すぐに死ぬ。インド出身の吸血鬼というのも、イメージ的にピンとこないのかも。
さて、さきほど実在の人物が登場すると書いたが、実は最後にあっ!と思わせる仕組みが隠されていた。女吸血鬼リラ(インドのカーリーであり、ギリシアではキルケ、ユダヤではリリスであるとされる時空を超えた不老不死の存在)のほかに、もうひとりルースヴェン卿という吸血鬼が登場するのだが(こちらのほうはドラキュラのイメージがある)、この紳士は、なんと、あの詩人のバイロン卿だったというのだ。バイロン卿が吸血鬼となって、延々と生き続けているというのだ。
さらに、主人公のジャック・エリオットだが、最後には女吸血鬼リラによって洗脳され、これまたびっくりの「切り裂きジャック」となってしまったのだ。そして、リラの呪縛が解かれた時、「切り裂きジャック」は消えたが、バイロン卿と同じ吸血鬼となり、苦悩を抱えながら生きていくといった次第。
ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』では、ヴァン・ヘルシング教授という善のヒーローが登場し、吸血鬼をやっつけるという顛末になっているのだが、この本にもヴァンヘル役とおぼしき人物はいる。インド人の巨漢フレー教授である。しかし、インド出身の吸血鬼もぴんとこないが、インド人の巨漢がヴァンヘル教授の役まわりというのも、全然ぴんとこない。結局、フレー教授は吸血鬼退治には何の役にも立たなかったし。
しかしこの本の面白さは、そうした読者への裏切りで成り立っているかもしれない。ストーカーの『ドラキュラ』を読んでいる人は、まずスタイルが『ドラキュラ』と同じことに気づき、さらに、これがヴァンヘルだな、などと思って期待する(あるいは、なんだ真似じゃないかと思う)のだが、吸血鬼はずっと生き残っているし、主人公は切り裂きジャックになってしまうし、ヴァンヘル役の吸血鬼の大家は何の役にも立たないというのがわかると、まんまと騙されたなと思い、思わずニヤリとなる。
また、エリオットと作中のブラム・ストーカーのコンビは、シャーロック・ホームズとワトソン博士のようでもあり、その謎解きの仕方も、ホームズそっくりである。そんなところも、ホームズ作品を知っている人なら楽しめる部分だ。
ちなみに、インド出身の吸血鬼はぴんとこないと書いたが、訳者あとがきによれば、学者や研究家の多くは吸血鬼発祥の地をインドだと主張しているそうだ。しかし、それはそれでいいが、どうやっても滅ぼすことのできない神のような存在として描かれてしまうのは、なんとも救いがないような気がする。「エイリアンVSプレデター」みたいなもので、どっちが勝っても「人類に未来はない」といった感じだ。吸血鬼をやっつけられないとしたら、いずれ地球は吸血鬼だらけになってしまうだろうに。
そこで、ドラキュラがエリザベス女王と結婚して人類征服を図るなんて話が出てくるわけだが、それはまた別の作家の話。それからの話はキム・ニューマンに譲ろう。
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