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2004年12月07日(Tue)
冷血/トルーマン・カポーティ

11月のブッククラブの課題本だったのだが、12月になってやっと読み終えた。文庫版で約550ページくらいの本で、厚いといえば厚いが、特別に分厚いというわけでもないのに、なぜか遅々として進まない本であった。進まない理由のひとつに、翻訳の日本語がどうもすんなり入ってこないというのがあった。昔の古い翻訳は、みなこんなものだとも思うのだが、内容は1950年代から60年代のもので、初訳は1967年だから、これもまた特別に古いというわけでもない。
現在では、惨殺事件はこれまた珍しくもないことだが(嘆かわしくも)、カポーティの時代には、かなりショッキングな事件であったのだろうと思う。しかし、カポーティがこの事件に興味を持ったのは、犯人のひとりであるペリー・スミスに、尋常ならざる好奇心をかき立てられたせいではないだろうか。本書の冒頭から、すでにカポーティのペリーへの思いは明らかである。
犯人のペリーとディックが、なぜクラター一家を惨殺したのかという理由は、二人が述べた理由以外には書かれていない。なぜ?という疑問は大いにあっただろうが、ノンフィクション・ノベルというからには、作者の推測はご法度だろう。それでも言外に、ペリーの精神的な鬱屈によるものではないかというカポーティの意見は読み取れる。
この本の感想を書くにあたって、事件の内容や、犯人について書くのは見当違いだろうと思う。それについては本書の中で、カポーティが事細かく描いているのだから、今さらここに書くまでもない。だから、なぜカポーティがこのような作品を書いたのか、この作品で何を言いたかったのかということを考えるほうがいいのだろうと思う。
これまで読んだカポーティの作品は、ほとんどが<イノセント・シリーズ>といわれるもので、そのシリーズは、個人的には大好きである。そのイメージがかなり強いために、他のイノセントでない作品が受け入れられなかったりもする。例えば、遺作である 『叶えられた祈り』 などは、こんなカポーティは読みたくない、知りたくないと思うほどだ。私にとってカポーティは、あまりにもイノセントなイメージが強すぎるのだ。
だが一方で、カポーティが根っからイノセントでないことも知っている。親の愛情に飢えたエキセントリックな人物であり、「早熟の天才」と言われているように、ある意味で狂気と紙一重のところにいたことも知っている。単なる個人的な好みとしては、そんなカポーティには目をつぶっていたいと思うのだが、この『冷血』で、目をつぶっておきたいはずのカポーティが、ペリーという殺人犯の姿となって、よりにもよってカポーティ自身の手で、あますところなく暴き出された感じがする。
そういった意味で、カポーティはこの作品で大きな冒険と賭けをしたのではないかと思える。ペリーという人物が、読んでいるうちにカポーティのイメージと重なり、カポーティはほとんど自虐的なまでに、自分自身を描いたかのようにも見える。おそらく、事件を知ったカポーティは、そこに自らの姿を見たような気がしていたことだろう。親の愛情を知らず、周囲にいじめられ、捻じ曲がっていったペリーの心に、自らの経験を重ねたことだろうと思う。
そう考えると、カポーティがこの事件を取り上げ、特にペリーに感情移入していったのは、なるほどもっともなことだと思えるのだ。作品を書くにあたって、幼馴染のハーパー・リーに調査を手伝ってもらったというのも、彼女以外にはできない仕事だったからではないだろうか。幼い頃のカポーティの状況を一番良く知っているのは、彼女だろうから。

カバーより
アメリカ中西部の片田舎の農村で、大農場主クラター家の4人が惨殺された。著者は、事件発生から、ペリー、ディックの2人の殺人者が絞首台の露と消えるまで、犯人の内面の襞深くわけ入り、特にペリーには異常なほどの感情移入をして、この犯罪の本質に鋭く迫っていく。細密な調査と収集した膨大なデータの整理に5年間の全生活を賭けて完成した衝撃のノンフィクション・ノベル。
●画像は原書 『In Cold Blood: A True Account of a Multiple Murder and Its Consequences (Vintage International)』
アメリカ中西部の片田舎の農村で、大農場主クラター家の4人が惨殺された。著者は、事件発生から、ペリー、ディックの2人の殺人者が絞首台の露と消えるまで、犯人の内面の襞深くわけ入り、特にペリーには異常なほどの感情移入をして、この犯罪の本質に鋭く迫っていく。細密な調査と収集した膨大なデータの整理に5年間の全生活を賭けて完成した衝撃のノンフィクション・ノベル。
●画像は原書 『In Cold Blood: A True Account of a Multiple Murder and Its Consequences (Vintage International)』
11月のブッククラブの課題本だったのだが、12月になってやっと読み終えた。文庫版で約550ページくらいの本で、厚いといえば厚いが、特別に分厚いというわけでもないのに、なぜか遅々として進まない本であった。進まない理由のひとつに、翻訳の日本語がどうもすんなり入ってこないというのがあった。昔の古い翻訳は、みなこんなものだとも思うのだが、内容は1950年代から60年代のもので、初訳は1967年だから、これもまた特別に古いというわけでもない。
現在では、惨殺事件はこれまた珍しくもないことだが(嘆かわしくも)、カポーティの時代には、かなりショッキングな事件であったのだろうと思う。しかし、カポーティがこの事件に興味を持ったのは、犯人のひとりであるペリー・スミスに、尋常ならざる好奇心をかき立てられたせいではないだろうか。本書の冒頭から、すでにカポーティのペリーへの思いは明らかである。
犯人のペリーとディックが、なぜクラター一家を惨殺したのかという理由は、二人が述べた理由以外には書かれていない。なぜ?という疑問は大いにあっただろうが、ノンフィクション・ノベルというからには、作者の推測はご法度だろう。それでも言外に、ペリーの精神的な鬱屈によるものではないかというカポーティの意見は読み取れる。
この本の感想を書くにあたって、事件の内容や、犯人について書くのは見当違いだろうと思う。それについては本書の中で、カポーティが事細かく描いているのだから、今さらここに書くまでもない。だから、なぜカポーティがこのような作品を書いたのか、この作品で何を言いたかったのかということを考えるほうがいいのだろうと思う。
これまで読んだカポーティの作品は、ほとんどが<イノセント・シリーズ>といわれるもので、そのシリーズは、個人的には大好きである。そのイメージがかなり強いために、他のイノセントでない作品が受け入れられなかったりもする。例えば、遺作である 『叶えられた祈り』 などは、こんなカポーティは読みたくない、知りたくないと思うほどだ。私にとってカポーティは、あまりにもイノセントなイメージが強すぎるのだ。
だが一方で、カポーティが根っからイノセントでないことも知っている。親の愛情に飢えたエキセントリックな人物であり、「早熟の天才」と言われているように、ある意味で狂気と紙一重のところにいたことも知っている。単なる個人的な好みとしては、そんなカポーティには目をつぶっていたいと思うのだが、この『冷血』で、目をつぶっておきたいはずのカポーティが、ペリーという殺人犯の姿となって、よりにもよってカポーティ自身の手で、あますところなく暴き出された感じがする。
そういった意味で、カポーティはこの作品で大きな冒険と賭けをしたのではないかと思える。ペリーという人物が、読んでいるうちにカポーティのイメージと重なり、カポーティはほとんど自虐的なまでに、自分自身を描いたかのようにも見える。おそらく、事件を知ったカポーティは、そこに自らの姿を見たような気がしていたことだろう。親の愛情を知らず、周囲にいじめられ、捻じ曲がっていったペリーの心に、自らの経験を重ねたことだろうと思う。
そう考えると、カポーティがこの事件を取り上げ、特にペリーに感情移入していったのは、なるほどもっともなことだと思えるのだ。作品を書くにあたって、幼馴染のハーパー・リーに調査を手伝ってもらったというのも、彼女以外にはできない仕事だったからではないだろうか。幼い頃のカポーティの状況を一番良く知っているのは、彼女だろうから。
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